詰将棋考察ノート

詰将棋に関する考察あれこれ。

打診手に関する考察

今回扱うテーマは「成・不成打診手」(以下では単に「打診手」と表記する)である。
まずは、下図の7手詰を御覧いただきたい。
20160103_01.png
(※まったく同一手順の作品があったはずだが、見つけられず。)
作意:26桂、同飛不成、25角、同飛、15歩、同飛、26桂 まで7手。

初手いきなり25角(または36角、25歩合、同角としても同じ)は、同飛成! 15歩、同龍で、26に効きがあって詰まない。
このため、まず26桂と打つ。これに対して同飛成ならば15歩、同龍、23角まで。
したがって同飛不成と取るが、これで成ることができなくなったので、25角を決行できることになる。

さて、今回の考察の焦点は、「初手26桂は打診手か?」である。

この判断をする前に、「明らかに打診手である」と断言できる例を挙げさせていただく。

若島 正 氏作 (詰パラ2014年11月号 短期大学)
20160103_02.png
54桂、同歩、17馬、同角不成、73歩成、51玉、52歩、同玉、82龍、72歩、同龍、62歩、(図3)
図3までの12手も不成あり中合ありと虚々実々の応酬なのだが、本題と無関係のため説明は省略。
20160103_03.png

ここで、64桂? とすると、51玉で次図。
20160103_03fail1.png

ここから攻め方は2通りあるが、
(X)62龍…同角不成なら詰むが、同角成!とされて詰まない。
(Y)62と…同角成なら詰むが、同角不成!とされて詰まない。

これは、玉方が成・不成を選択できるからである。作意は、
図3から53歩!とする。(図4)
20160103_04.png

これに対し、玉方は、同角成または同角不成と態度を決めなければならない。
(a)同角成、64桂、51玉、62と(Y)、同馬、52歩、同馬、同龍まで21手駒余り。こちらは変化。
(b)同角不成、64桂、51玉、62龍(X)、同角、52歩、61玉、72とまで21手。こちらが作意。

さて、図4の53歩が打診手であることは議論の余地が無い。そして、機構をもっと詳しく見てみると、次のような構造になっていることがわかる。

逃れのパターン
打診を経由しない場合に2通り(これをXとYとする)の攻め方があり、玉方のある駒pに対して、
X →p成  …逃れ。
Y →p不成 …逃れ。

詰みのパターン
打診Zを行った場合、
Z ―→ p成  → Y …詰み。
└→ p不成 → X …詰み。
で詰み。

図1について、これを当てはめてみよう。
p=27飛、Z=26桂 は良いとして、

逃れのパターン
X=25角  → 27飛が成で逃れ。
Y=16歩? → 27飛が不成で逃れ??? そもそも16歩は最初から打歩詰である。

詰みのパターン
26桂を打った場合、
26桂 ―→ 同飛成  → Y=16歩 …詰み。
└→ 同飛不成 → X=25角 …詰み。

図1においては、「逃れのパターン」における攻め方Yが存在していない! 単に「すぐに攻め方Xを選ぶと逃れる」というだけである。
「詰みのパターン」においてはXもYも存在しているため、漠然と眺めただけでは違いがわかりにくいが、図1の機構と図3の機構は似て非なるものであることがわかるだろう。

さて、改めて問おう。図1の初手26桂は打診手か?





勿体つけても仕方がないので正解を書くと、「“打診手”をどのように定義するか、に依存する。」である。

(1)「打診手」を「成または不成を強制的に確定させる手」と定義した場合[広義の打診手]
図1の初手26桂は打診手である。

(2)「打診手」を「2種類の攻め方に対して、玉方に成・不成を選択されて逃れることを回避するため、事前に成または不成を強制的に確定させる手」と定義した場合[狭義の打診手]
図1の初手26桂は打診手とは言えない。

長々と書いてきた割には当たり前の結論になってしまった。


おまけ
ここまでを踏まえて、図巧第38番について考えてみよう。人によってはこちらの方がメインになるかも知れない。
例によって、手順の詳細な解説はしない。詰将棋博物館参照。
20160103_05.png
23角、55玉、(図6)
20160103_06.png

図6から、いきなり35龍? とすると、同角成で馬が強くて詰まない(失敗図2)。
20160103_06fail2.png

そこで、(図6から)46銀!とする。
20160103_07.png
(a)同角成なら、56歩、同馬、35龍以下詰み。
(b)同角不成なら、35龍、同角、56歩以下詰み。
ちなみに作意は同銀で、その後35龍、同銀、56歩と進み、以下詰み(これ以降は省略)。

さて、図7の46銀は打診手か?
作意が同銀となっているので非常にわかりにくいのだが、機構としては図1と同様である。
すなわち、図7の46銀は、「広義の打診手である。狭義の打診手ではない。」が正しい。

ちなみに、図巧38番が打診手の一号局かどうかという議論もあるようだが、広義の打診手の一号局であるとは思う。しかし現在の目から見ると、打診に関しての機構自体は簡単に実現可能であり、それほど希少価値はない。
ただし、打診を行った手に対し「成でも不成でもなく第3の手で応じる」という展開(これに取らず手筋も絡む)が非常に珍しく、本局の価値もまさにこの点にあると言える。

「狭義の打診手」に関しても、もっと議論ができれば良いのだが、作例がすぐに出て来ない(泣)。現時点で思い浮かぶのはこれくらい。情報求む。
【追記】
目にとまった作品の紹介記事を書いた。→打診手に関する考察(2)
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  1. 2016/01/03(日) 00:01:00|
  2. 考察
  3. | コメント:6
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コメント

高級手筋

僕は最初の26桂は打診手には思えませんね。
打診手となると高級な手と言う感じなんですが、僕はロジックなんかより感触が良ければそれで良いので余り興味ないのですが、あれっなんでだろうとなると感触は良くなるので使い方の巧さがないといくら打診手でも面白くないと言うのが僕の持論です。

僕は打診の定義は難し過ぎて分からないのですが、その手を取った手が成った時、直接歩を打って打歩解消になる場合は打診ではないと思います。
言葉の意味として違う。
これは言葉の意味では不成強要手て言うべき手だと思っています。
打診と言うからには成られた時と不成の時は手を変えないと詰まなくてこそ、打診の言葉の意味になると思います。
だから成った時に直接打歩解消になる手は打診手にならないとすれば、分り易い定義になると思います。

  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 12:00:32 |
  3. 三輪 勝昭 #-
  4. [ 編集 ]

Re: 高級手筋

三輪さん コメントありがとうございます。

> 僕は打診の定義は難し過ぎて分からないのですが、その手を取った手が成った時、直接歩を打って打歩解消になる場合は打診ではないと思います。
> 言葉の意味として違う。
> これは言葉の意味では不成強要手て言うべき手だと思っています。

用語の定義は難しいですね。
解説や短評では、ほとんどの場合、最初の図の26桂と同じ形式の手を「打診手」と呼んでしまっているような気がします。
  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 15:13:43 |
  3. ほっと #-
  4. [ 編集 ]

定義の問題は大好物なので、首を突っ込まさせていただきます。

この話題に関しては、三連続中合(打診を含む)を達成した若島作において「打診中合」の意義についてツイッター内でツメガエルさんが行った解説が分かりやすいかと思います。

https://twitter.com/tsumefrog/status/594568780992229376


これに則して考えると、若島作の53歩の意味が「成らせること」と「成らせないこと」という表現で尽くすことができますが、26桂は「成らせないこと」と「打ち歩詰回避」という二つの目的が並ぶので、純粋な意味での(狭義の)打診ではないと言えると思います。


46銀については「銀で取らせる」「角で取らせる」の二つの意味じゃないでしょうか。成生を強制させるという意味では内容に見えるので、本文における「広義」の打診でもないように見えます。
  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 16:57:58 |
  3. 結城 桃燈 #549kXdUY
  4. [ 編集 ]

桃燈さんコメントへの返信

桃燈さん コメントありがとうございます。

> この話題に関しては、三連続中合(打診を含む)を達成した若島作において「打診中合」の意義についてツイッター内でツメガエルさんが行った解説が分かりやすいかと思います。
>
> https://twitter.com/tsumefrog/status/594568780992229376
>
>
> これに則して考えると、若島作の53歩の意味が「成らせること」と「成らせないこと」という表現で尽くすことができますが、26桂は「成らせないこと」と「打ち歩詰回避」という二つの目的が並ぶので、純粋な意味での(狭義の)打診ではないと言えると思います。
>
いやー難しい。飛角歩に対しては、「成らせること」=「打歩詰回避(打開)」が成り立つので、図1の26桂にも「成らせないこと」または「成らせること」が目的となってしまいそうですが……。


> 46銀については「銀で取らせる」「角で取らせる」の二つの意味じゃないでしょうか。成生を強制させるという意味ではないように見えるので、本文における「広義」の打診でもないように見えます。

図巧38番の方は更にややこしい構造になっていて、紛れと作意順とを比較した場合「銀で取らせる(46を玉方銀で埋めることにより、57角の効きが35へ届くのをブロックしておく)」のがメインの目的になっているように見えますが、一方で「57角が成か不成かを強制的に決めさせる」という目的も含んでいます。このため、記事内では「図1と同様」と書いたのですが、間違ってる?
  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 18:35:32 |
  3. ほっと #-
  4. [ 編集 ]

定義に興味なし

僕は桃燈さんと逆で定義に興味なしです。
理屈が面白いならそれで良しです。
僕は打診は後出しジャンケンだと思っています。
相手がパーを出すならチョキを出し、グーを出すならパーを出す。
相手がどちらを出すか知る手が打診手。
冒頭の26桂は、自分は何が何でもグーを出す。なので相手にチョキを出させる手。
後出しジャンケンとはちょっと違うかなと思います。
詰将棋としてはそれで十分面白いですけど。

だけどちょっと待ってくれ。
打診合も論理的には、実は自分はグーを出すと決めている。
それをチョキを出させているのじゃないのかなと思う。
つまり僕の論理では冒頭の26桂も巷に打診手と言われているのは同じです。
何が違うかと言うと感覚的なもの。
打診手は後出しジャンケンで、26桂は強要手に感じます。
僕はその程度の分類で十分だと思っています。
要は言葉のイメージ通りならそれで構わない。
打診手に限らず、逆に定義通りでも、言葉のイメージと違うのは僕はそう呼びたくないですね。
  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 18:55:33 |
  3. 三輪 勝昭 #-
  4. [ 編集 ]

Re: 定義に興味なし

三輪さん コメントありがとうございます。

> 僕は打診は後出しジャンケンだと思っています。
> 相手がパーを出すならチョキを出し、グーを出すならパーを出す。
> 相手がどちらを出すか知る手が打診手。
> 冒頭の26桂は、自分は何が何でもグーを出す。なので相手にチョキを出させる手。
>
> 何が違うかと言うと感覚的なもの。
> 打診手は後出しジャンケンで、26桂は強要手に感じます。
> 僕はその程度の分類で十分だと思っています。

仲々うまい例えですね。
図1の26桂と図3の53歩が何となく別物だな~、ということは誰もが感じていたはずで、じゃあどこがどう違うか? それを何とかうまく説明しようとして書いた記事でした。ちゃんと伝えられているか不安ですが。
  1. URL |
  2. 2016/01/03(日) 20:14:51 |
  3. ほっと #-
  4. [ 編集 ]

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